「革」論

 日本で易学を研究する者でこれまで「革」について論じた者は実に少ないものでした。 

 「革」の意味を知らずして、「沢火革」云々する似非易者の本には辟易する限りですが、近代易学で「革」の精神を唯論じた小林宜園氏に、拙者は同感すら覚えます。氏が述べるに、「政体政治の組織等百般の物を破壊顛覆する流血淋漓(りんり)の惨劇を以てレボリューションと称し之を漢語に訳して革命と称するは革命の真意義を知らない者の翻訳語である・・・(中略)・・・・・・・・・否道によりて国家を変革するを以ってレボリューションと称するならば、之に対して革命の熟語を充当することは根本的に大誤謬である。従って、真の革命、即ち、天地の公道に順い人に応じて革(あらた)むると曰う」と。つまり、氏の言を借りて言うなら、革命とは「天の命に順って革むること」であり、ここで言う天の命とは、「天地の大真理、光と熱との陰陽二作用によって変化する科学的推論と哲学的理論に立脚し順応すること。」なのです。小林氏は易学を研究され、この境を得ているようですが、実際のところ、革命の「革」は、沢火革の卦から生まれた概念であって、それは八卦の成り立ちから、詳しく読み解き研究していないと、その真意を理解することは難しいのでしょう。

 そこで、小林氏の読み解く沢火革の「革」論から考えていきましょう。沢火革の卦は八卦の兌卦(沢)と離卦(火)が上下重なる大成卦です。「沢」が上卦にあって不動の水をなし、「火」が下卦で正にこれから活動しようとする火をなします。この水火は目下、相息(やす)み、これから分解がなされようとする状況を言います。沢火革とは沢中火熱あって大改革が起きる前兆を示すものなのです。あるいは、沢は湖海江沢の溜まり水で、即ち流動しない水です。水が動かざれば、水中熱を増して細胞は分解作用を開始します。ここに何物かを変生しようとするが故に、易学において沢水困の「溷濁(こんだく)」の意味の、次に水風井の卦を置いて「浚渫(しゅんせつ)の功」を説き、さらに、沢火革を置いて「沢中熱を発して更生する理」を説いたものと考えるのです。そして、この卦の理解に留まらず、これが国家政治にあっては「沢」は無智頑冥(がんめい)の小人で上位にあり、この小人が下国民に対して政治を布(し)かんとするのです。しかし、下国民は既に「火」の文明怜悧(れいり)の明智に目覚めて触れる物皆焼き尽くさんとする熱力熾烈に当たり、ここに大分解の作用を起すことは、当然なる大自然の真理であると考えるのです。
 実は、この小林氏の言う「沢火革」はもっともな易理を有し、易学者として相当の水準にあったことは疑いないのです。勿論、こうした卦象の説明はどれも正しいと、拙者も思っているのですが、惜しいのは卦象レベルからの説明ができても、卦を構成する爻のレベルからこの「革」を論じられていないことです。これはマクロを論じて、ミクロの作用を失った論であります。氏ですらそうですから、卦の成り立ちを熟知し、かつ究極の爻のレベルから「革」の意を汲める易学者は、日本にはいなかったのでしょう。ここからは、拙者の「革」論について述べておきましょう。

 「沢火革」の卦は外卦の八卦では「兌」です。兌は沢をなし、口をなし、水をなします。そして、内卦の八卦は「離」で火をなします。ということは、下が火で上が口の開いた鍋を表します。これはある種、皮革を加工するプロセスを意味する卦なのです。革とは動物の皮(皮革)の意味もあり、そこには必ず水と火を使って、しなやかで、かつ丈夫な皮革を作るための作業工程があります。だから「革」になるのです。さらに、細かい六爻のレベルからこの革の意味を紐解いてみましょう。

 この卦の三爻と四爻には兄弟が並んでいます(これを両現と呼びます)。爻位では三爻は門を、四爻は扉をなします。そこに六親の兄弟が位置するということは、内卦、外卦の接点となる所にお金がないことを意味します。それは同時に、内にも外にも財が望めない状況であることを示します。卦の上に妻財が出現せず、三爻の下に伏しています。これも財が無いことを意味し、社会全体が財に窮していることが窺えます。さて、四爻の兄弟には、世爻が臨んでいます(兄弟持世)。世爻は自らの地位を表していますから、自分にもお金がないという意味になります。つまり、この卦は貧しい象、貧窮を表す象と言えるのです。

 貧乏で窮する状態において、人心は必ず変を求めることでしょう。この変を求める象こそがこの革卦なのです。つまり、変革、革命によりこの貧から抜け出したい思考こそが、この革卦には内在されているのです。

 以上が、拙者の分析する革卦の真意です。よって、「革」とは、貧しきを改める「改」の意味でもある訳です。ここに、変化全般や変故(大きな変化)、変革、改革、異変の意味が生じ、それが派生して改修、修正の意味にもなったのです。その「革める」作用は、社会の上下を馴染ませる、相いれないと思われるものを融合する理を持つのです。そして、君子の側から観じる時、暦を修正し改めることで四時の変革を民衆に明らかにし、革めて天の時に従って政事をなす心機をシンクロさせたと考えるのです。これが拙者の考える革卦が「革」たる所以です。

青川素丸 表参道の父

東京 青山・表参道の発祥! 易学中興の祖! 【青川素丸】 数十年の研究を経て驚くほどの的中率に 易学を蘇らせた! 未来を預測する有名占い師!! 【表参道の父】 青川素丸 AOKAWA SUMARU 音声SNS「clubhouse」の占い部門で世界最大の 「占いCLUB」創設者