易姓革命

 「易姓革命」(えきせいかくめい)とは儒教に基づく政治思想です。古来、中国では数々の王朝が建てられては滅んできました。それぞれの王朝(の天子)は、それぞれの「姓」(いわゆる血統)を持ち、王朝が易(か)われば当然天子も易(か)わるので、「姓」(血統)も易(か)わります。王朝は同じ姓(血統)で連続していきますが、王朝が交代すれば、王室そのものの姓も易(か)わることから、これを「易姓(えきせい)」と呼ぶのです。王朝が易わる理由は、天子が徳(統治するパワー)を失うことで天命(てんめい)が他の「姓」(血統)へ移るからと考えられていました。つまり、易姓革命は新王朝への交代を正当化できる思想であり、「姓(せい)を易(か)え、命(めい)を革(あらた)むる」という大義を持つのです。

 元来、天には意思があり、天は自らに成り代わって、人類の中でも徳を備えた血統(姓)にのみ天命を賦与し、天下を統治できる(正統の)天子が誕生すると考えられてきました。つまり、天子がその徳を失えば、それは同時に天命が終わる時でもあり、天がその血統(姓)を見限り天命を革(あらた)めるので「革命」が起きると考えたのです。

 したがって、あくまで易姓革命は、天子が本来持っていた徳が失われることが契機となります。そして、もしこの革命を天子自ら悟ることができれば、次なる姓へ自らの地位を穏便に譲ることができるでしょう。このように天子自ら身を引き、次なる天子へ位を譲ることを禅譲と言います。まさに2019年5月1日の「令和」の改元は、「平成」天皇が革命を悟ることで、皇太子に天皇位を継承し禅譲を果たした一大事でありました。

 一方、自らその革命の時期を悟れない天子は、武力によって追放される憂き目を見るでしょう。これを「放伐(ほうばつ)」と呼びます。また、この思想には、時として天自らが天変地異を引き起こすことで、王朝を滅ぼし天子を去らせることもあると言います。

 中国ではこのような思想があったことで、正に「下剋上」という考え方まで許され、平民から天子へ成り上がれるばかりか、国の統治をも正当化できることになるのです(まさに、劉邦、朱元璋などが相当します)。この意味が拡大解釈されれば、徳の無い統治者(王朝)は即刻、打倒され廃されるべきという極端な考えに繋がります。とりもなおさず戦乱の引き金になる訳です。尤も王朝を建国した天子が皆、徳を有していたか?と言うと、それもまた疑問です。このように考えると、「易姓革命」とは王朝交代を正当化するために使われた、後付けの政治的大義と言えなくもないのです。


青川素丸 表参道の父

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