古代の時刻法
古代中国の時刻には、もう一つ自然時を利用するものがありました。最も代表的なものは太陽を観測する日時計です。中国には水時計を管理した挈壷氏の他に「土圭(とけい)」という日時計を扱う役職・地位も同時にあったと《周礼》には書かれています。日時計は、盤上に立つ棒の影が短くなる時刻を正午として一日の時間の基準としていました。ですから一日は正午を基準に正午の前半分を午前、後半分を午後としたのです。正午の午は十二地支の「午」方位を意味し、丁度太陽が午の方位に南中する時刻なので「正午」となるのです。しかし、古代中国において自然時はむしろマイナーだったようです。日が出ない曇りの日は、時刻がわからないからです。ここから、水時計を作って利用しようとするる発想が出てきたのかもしれません。
さて、古い話になりますが、商代には1日を100等分して時間を数える発想が出てくるのです。一日を百分割した約14.4分間(14分24秒)を一単位(刻)とます。これを100刻法(百刻制)と呼びます。そして、この時法はその後引き継がれ「十時辰制(しんせい)」と言う時法が誕生したのです。
また、先秦の時代には、昼と夜をそれぞれ5等分した時法があったと《隋書天文志》には記されています。これは、昼を「朝(ちょう)、禺(ぐ)、中(ちゅう)、晡(ほ)、夕(せき)」、夜を「甲、乙、丙、丁、戊」に分ける方法です。この夜の分け方は、後に「五更(ごこう)」という時法に替わります。元々「jing」(「経」と同音)の音を単位としており、転じ「更(こう)」で時刻を表現したと言われます。例えば、一更≒戌刻、二更≒亥刻、三更≒子刻・・・という具合に配列されたのです。
その後、西周の時代には12刻法の考え方が既にでき上がっていたようです(ただ本格的に用いられたのは漢代からと言われます)。12刻法は1日を12等分し、真夜中から十二地支を順番に配当したもので十二時辰法(じゅうにじしんほう)とも呼ばれます。これは、漢代に十二の各刻に名前が当てられたことで、庶民も記憶しやすく一般的になったようです。
(※「時晨(じしん)」「辰刻法(しんこくほう)」とも言います)
○子刻=夜半、子夜、中夜。
○丑刻=鶏鳴、荒鶏。
○寅刻=平旦、黎明、早晨、日旦。
○卯刻=日出、日始、破暁、旭日。
○辰刻=食時、早食。
○巳刻=隅中、日禺。
○午刻=日中、日正、中午。
○未刻=日昳、日跌、日央。
○申刻=哺時、日鋪、夕食。
○酉刻=日入、日落、日沉、傍晩。
○戌刻=黄昏、日夕、日暮、日晩。
○亥刻=人定、定昏。
次の宋の時代には二十四時辰制が導入されます。これは十二時辰のそれぞれの刻を半分にし、前半を「初(しょ)」、後半を「正(しょう)」と表記する方法です。例えば、子初、子正、丑初、丑正、・・・という具合に24を数えます。これは現在の24時間制と一致するものです。
その後、明代に入り、西洋の時間概念が導入され、一日が24時間とされます。つまり、これが現在使われている「24時間制」です。西洋の一時間は中国の二十四時辰制の概念と近似しており、その頃中国で主に用いられてきた一刻を半分にした単位と偶然にも符合したのです。これまでの辰刻法(しんこくほう)との整合が十分に取れたことから、中国では1時間を「小時(しょうじ)」と呼んで、あっさり24時間制を受け入れたと言われます。今、中国で「時刻」と言うと、西洋の24時間制の時法が主流ですが、それでも所によって「辰刻法」も利用されています。さらに、古代中国の一日100等分によって作られた「刻」の考え方も全く棄捨された訳ではなく、刻≒15分に近似していることから、現在でも15分の意味で用いられることがあります。例えば「五点(てん)一刻(こく)」と言えば「5時15分」を指す場合があるのです。
写真:中国・故宮の日時計
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