暦と歴の違い

 「暦(こよみ)」と似て非なる言葉に「歴(れき)」があります。「歴」は時間軸の中で現時点よりも「過去」の時間を象った表現です。「歴(へ)る」とも使われました。例えば「歴史」という言葉を解釈してみましょう。「史」は記録された過去からの時間経過を指す言葉で、「史」自体は、文や文書、証拠、資料など過去のエビデンスを表します。だから、「史」は「有史」「先史」等と使われます。つまり、「歴史」はエビデンスに基づき記録を経てきた過去を表すのです。このことから「歴」は過去の時間軸(マイナス方向)を表すことが理解できるでしょう。一方、「暦」が未来(プラスの方向)の時間軸を表すという解釈も成り立ちます。(下の解釈図を参照)          

 この解釈を裏づける文献があります。《説文解字・第二巻上》によれば「歴は過なり」と記されています。《漢語林》によれば「歴」には「経る、過ぎる、渡る、巡る」など私たちがよく使う意味の他「経過してきた事柄」なども挙げられています。このように「歴」には辿ってきた過去、時間を経て来た過去を説明するニュアンスが充てられ、拙者が考える「歴」=「時間軸上の過去」のイメージと矛盾はなさそうです。また「歴」には「歴然、歴々」など「客観的に明らかなこと」「明白なこと」などの意味もあります。これは過去を説明するというニュアンスを敷衍し、過去であるが故に客観的事実と成り得た「明」そして「陽」のイメージが関係づけられたとも推察できます。(※上記図のような時間的なプラス方向、マイナス方向と、中国古来の陰陽説とは関係がないのでご注意ください。陰陽学説では、過去が陽、未来が陰というカテゴリーに分類されます。)

 当然ですが過去の事象をしっかり踏まえた上で、因果という視点から時間的な解析を行なわなければ、未来を正確に預測することは不可能です。つまり、時間から導かれるプラスとマイナスのエネルギーの特性と因果を十分に把握できなければ、あらゆる事象も預測することができません。なぜなら、あらゆる事象は宇宙という空間次元で生じると同時に、空間と表裏一体をなす時間次元でも生じているからです。このように、「歴」の過去事象からそれを惹起する条件や環境を抽出し、それを元に「暦」のスケジュールを創り出し、次なる空間事象の生起を預測することが、「暦」の本来の機能と考えます。

 未来を預測する学問に「六爻預測学」(易学の一派)があります。この学問の理論にも暦の原理が組み込まれています。この暦の機能と原理を理解するためには、科学的な思考や物理的な視点が不可欠です。なぜなら仮説・現象・結果の検証(科学的手続き)を経て初めて「事象の預測と暦との関係性」が解るだけでなく、時空間や宇宙、意識に関わる新たな規律や知見を発見したり、体系化も可能だからです。だからこそ人は暦にロマンを感じてきたのかもしれません。宇宙や意識についての規律を解き明かし、時空間のパワーを手に入れたくなるのです。拙者が期待することは、こうした時空間のパワー原理を多くの人々が知って、パワーを制御できるレベルにまで引き上げることです。勿論、それができる時代が到来していると言えます。暦の能動的、積極的な活用方法として易学の視座を導入すれば、古来暦法も現在の人類に対し有益な情報を漏らすはずと考えるのです。

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青川素丸 表参道の父

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