彝暦の紀法
彝暦(いれき)とは、中国雲南省楚雄(そゆう)の彝族に伝わるとされる太陽暦です。今に伝えられる太陽暦の典型として、しばしば挙げられるのがマヤ暦とこの彝暦です。しかし、大涼山(りょうざん)出身で自ら彝族でもある羅家修(らかしゅう)が「彝暦是十二月暦,不是十月暦」(彝暦は十二月暦であって十月暦ではない)という論文を発表したことから通説が覆されるという事態が起きました。さらにいくつか彝暦に関する著作も出し太陽暦を真っ向から否定したのです。その結果、彝暦が太陽暦とする学説の信憑性そのものが疑われ始めます。この事態から、太陽暦の発祥地として観光地化の政策を推進してきた当局も、微妙な立場におかれるという話があります。
まあ、こういう滑稽な対立話はおいておいて、拙者は暦研究家なので、暦法の紀法と言う観点からこの彝暦について考えてみたいと思います。
●暦の概要
一年=10ヶ月、一ヶ月=36日で一定です。また一年=五季(土、銅、水、木、人)を割り当て、一季=72日で一定です。また、彝暦では北斗七星の指す方向と太陽の位置とを根拠に冬、夏の2つの季節を定めると言います。
●紀年法
彝暦は紀年に数字、属相を用いず、「八方紀年」という独自の方法を用いていました。
それは、 東方之年、東南方之年、南方之年、西南方之年、
西方之年、西北方之年、北方之年、東北方之年。
の8年周期でありました。
●紀月法(2種類の方法あり)
・10種類の動物で紀月する方法(十獣暦(じゅうじゅうれき))
1月黒虎、2月水獺、3月鰐魚、4月蟒蛇、5月穿山甲、
6月麂子、7月岩羊、8月猿猴、9月黒豹、10月四脚蛇。
・一季(2ヶ月)毎に土、銅、水、木、火の属性を配し、
一季毎に公・母を配当する方法。
1月土公、2月土母、3月銅公、4月銅母、5月水公、
6月水母、7月木公、8月木母、9月火公、10月火母。
※後者は、天干と符合する要素を持ち、拙者はこの考え方は非常に重要と思います。
どういう発想でこの紀法に到ったか?その思路が判れば、天干の数の謎の解明に
繋がると考えるからです。
●紀日法
紀日は、十二属相(ぞくしょう)によって日が表されていたと言います。三周する36日が
1月となります。
順番は、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鶏、狗、猪、鼠、牛で日が記されていました。
虎が一番目なのは、当時、彝族が虎を崇拝していたからではないかと言います
【考察】一ヶ月36日の周期的発想がどこから来たか?まではわかりませんが、推測では12×3により36という数字が起こされたのでしょう。12は「十二の属相」です。それが3周で一ヶ月。これ自体は旬に近い発想ですが、こうなると今度はどうして十二属相が出現したのか?という新たな疑問が生じます。シビアな見方かもしれませんが、拙者は、彝暦の十二日周期自体が少なくとも太陽暦と言いながら太陽から得た発想でないように感じます。それから、十二属相動物と十獣暦に配された十の獣との違いは何なのでしょうか?調べれば調べるほど不可解でなりません。現時点で、この彝暦を中国最古の暦として位置づけるには材料が足りず、かつ、日が10周期あるいは12周期であるべき理由にはならないのです。さらに、紀月法の中に五行に似た表記があっても、五行が確立した時期は干支紀日法が成立した後と考えられており、彝暦を最古の(太陽)暦とするには他の歴史的事実と矛盾を孕むことになるので、現状認める訳にもいかないのです。作為を勘繰るのは失礼と感じながら、もう少し考古学的な見地による検証を待つ必要があります。
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