分子時計

 現代の生物学研究の発展は目覚しく、それぞれ生物に固有に存在するDNA(遺伝子)配列が世代を経る毎に少しずつ変化していたことが、DNAの分析から明らかになっています。

 宮田隆・五條堀孝《ゲノム情報を読む》によれば、これは遺伝子のアミノ酸配列が種によって異なるのですが、配列の違い(変容率)と生物間の進化上の分岐年代の関係を調べたところ比例関係にあるというのです。つまり、アミノ酸の置き換わる率(=置換率)が高い生物同士ほど、進化上の分岐年代の間隔が長いのです。それは、生物が進化し分かれ進んできた時間を測る尺度として利用できることを意味します。このように、分子構造の変容から測る時間は「分子時計」という概念で表現できます。

 しかし、どうしてこのようにDNAが時間と共に変容する必要があるのでしょうか?それは、どうして生物が進化するのか?と言うことと同じ問いかもしれませんが、これに対する回答は、生物が命を持つ生き物として、たとえ個として滅んだとしても種としては生き続けて、さらに種として滅んでも、また別の種として生き残る原理がある、としか言えません。だからこそ、これまで地球上に生物が生きながらえ、人間という種にまで進化を遂げることができたのです。それはある意味、生命誕生の時に既に仕組まれた、生物を生かすための解ではなかったかと思えるのです。

 話を元に戻しますが、分子レベルでの時間概念は、実はこのDNA変容だけに限った話ではありません。DNAの配列が一定速度で変わることで、アミノ酸の配列も変わり、それによりタンパク質の性質も少しずつ変化していくと言います。この周期は生物が固有に有しているものではなく、生物が進化の過程で、地球の日周期に自らの身体リズムを合わせるような、新たな形質を獲得したからと考えられます。

 拙者はここに人類が暦をつくる動機を感じずにはいられません。ある種、暦を作る作業は、人類が社会生活を送る上で大切な日周期の定義づけと記述であり、それらを確実にすることで自らのリズムを構築し、社会生活の安定を図る目的を達することができるのではないかと。人類が生物である以上遺伝子レベルで時間が刻まれていきます。そのチューニング、あるいはリセットは日周期によって為し得ます。そのリズムを外在化したものが暦であり、暦を作る動機は人類が文明を発達させるのと同様、人類の生きる上で、重要な一つの動機に成り得るのではないかと考えるのです。


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青川素丸 表参道の父

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